連載 DX × ITガバナンス| 第2回 DXが中小企業にもたらすインパクト|横浜市|コンサルティング

DX × IT Governance

連載 DX × ITガバナンス

第2回 DXが中小企業にもたらすインパクト


 前回の記事では「DX(デジタルトランスフォーメーション)とは何か?」について紹介しました。

 とはいえ、DXに取り組まないことにより、企業はどのような問題やデメリットを被ることになるのでしょうか?

 今回は、将来待ち受ける「2025年の崖」と、それを乗り越えられない時に予測される問題点、そして、「DXの本質」について紹介します。


目次

  1. 2025年の崖
  2. 中小企業を取り巻く、2020年以降の環境
  3. DXの本質とは何か?
  4. まとめ

 


1. 2025年の崖

待ち受ける 「2025年の崖」とは?

「2025年の崖」とは、2018年に経済産業省がまとめた「DXレポート」で提言された危機的問題点の総称です。その内容をかい摘んで述べると、「各企業がDXに取り組み、2025年の崖を乗り越えないと、2025年から2030年にかけて年間最大12兆円の経済損失が発生する」というものです。それは、中小企業も例外ではありません。

 

「2025年の崖」を超えないと何が起こる?

 では、DXを推進せずに「2025年の崖」を超えられない場合、中小企業にとって何が起こるのでしょうか?ここでは、「技術面での問題」、「人材面での問題」、「経営面での問題」の3つに分けて解説します。

 

技術面の問題

 1つめは「技術面の問題」です。

 インターネット、クラウド、そしてGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)の登場以降、私たちの生活は大きく変わりました。DXレポートでは「ディジタル・ディスラプションと呼ばれるゲームチェンジが起きつつある」と指摘しています。

 そして、現在はAI(人工知能)、5G、IoT(モノのインターネット接続による利便性向上)、RPA(ロボットによるプロセスの自動化)などの技術の活用が叫ばれています。そして、一部の企業ではこれらの技術の活用でジネスを変革し、市場に大きな変化をもたらした企業も登場しています。

 一方、レガシーシステム(老朽化した既存システム)を使い続けることでブラックボックス化が進み、新機能の追加がままならなくなり、やがて市場の変化についていけなくなる可能性があります。また、2025年には多くの企業で基幹システムとして使われている「SAP ERP」が終了します。DXレポートでは「ユーザ企業は、爆発的に増加するデータを活用しきれずに DX を実現できず、デジタル競争の敗者となる恐れがある」と危機感を訴えています。

 

人材面の問題

 ITエンジニアの不足も無視できません。2015年には17万人とされたITエンジニアの不足は、2025年には43万人まで急増すると言われています。また、既存システムを担ってきたITエンジニアの高齢化や退職に伴い、ますますレガシーシステムの維持や保守は困難となります。そして、保守の担い手がいなくなったレガシーシステムの下では、事業基盤そのものが危うくなる可能性があります。

 とはいえ、ITエンジニアの7割がベンダーに所属している日本において、企業のレガシーシステムを保守するためのエンジニアの確保は難しくなっています。一層のITエンジニア不足が予想される今後は、なおさら困難となるでしょう。また、IT技術が急速なスピードで進展の中、新たな技術を担うエンジニア教育が追いついていないのが現実です。少子高齢化が進み、社員採用が困難になる中、エンジニアの確保は各企業の大きな課題となっています。

 

経営面の問題

 老朽化したレガシーシステムを長年使い続けることで、それを維持するためのコストは年々増加します。それは、ITシステムにかける予算の9割をシステム維持・保守にかけるようにナルト言われています。そうなると、システム刷新にかける予算がなくなり、ますます市場から取り残されるという悪循環を招きかねません。

 また、システムの老朽化、保守を担うITエンジニアの不足によりシステムトラブルが発生し、企業が社会的信用を失うリスクが高まります。

 一方で、「ITシステムにはお金をかけたくない」と考える経営者が多いのも事実です。特に中小企業の経営者には、その傾向が強いようです。しかし、ITエンジニアがいなければITシステムの維持はできません。ましてや、「ディジタル・ディスラプション」など、今後はIT活用が一層経営を左右することが予想されます。

 このように、技術面の問題、人材面の問題、経営面の問題から、中小企業の経営者はDXの推進とITシステムへの投資を大きな経営課題として捉える必要があります。

2. 中小企業を取り巻く、2020年以降の環境

2020年以降、中小企業を取り巻く環境は厳しい

 2020年以降、中小企業を取り巻く環境は年々厳しくなることが予想されます。

 1つ目は「景気の減退」です。

 2020年に襲ったコロナ禍により、インバウンド需要は落ち込みました。これに伴い、観光業や宿泊業、飲食店などは大幅な落ち込みとなっています。また、海外では、アメリカ、ヨーロッパがコロナ禍の影響を受け、マイナス成長が避けられない状況となっています。これは輸出企業を中心に国内産業に影響を及ぼすことが予想されます。

 2つ目は「後継者不足」です。

 中小企業は後継者不足により、廃業を余儀なくされる企業が増えています。中小企業庁の予測によると、70歳を超える中小企業の経営者は245万人になり、そのうち半数は後継者不在と述べています。このため、後継者不在による廃業は、今後も増加することが予想されています。

 一方、「ディジタル・ディスラプション」をはじめとした市場環境の変化により、IT投資の必要性が高まっています。しかし、中小企業を取り巻く環境が厳しくなることが予想されるため、後になればなるほどDXへの取り組みが難しくなります。中小企業の経営者は今こそDXに取り組むことが必要なのです。

 

3. DXの本質とは何か?

 では、DXの本質は何でしょうか?一言で言うと、それは「ビジネス変革」に他なりません。

 

「ビジネス変革」こそがDXの本質

 2019年7月に経済産業省が開示した“「DX推進指標」とそのガイダンス”では、DXを以下のように定義しています。

 「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や
社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務その
ものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
(“「DX推進指標」とそのガイダンス”より引用)

 例えば、Amazonは、最初はインターネットで書籍を販売するサイトでした。しかし、現在では現在は「AWS」というITプラットフォームの提供が、Amazon最大の売り上げとなっています。そして、現在は「人工衛星3,000基を打ち上げ、世界中をカバーした携帯電話サービスを提供する」という計画が進められています。これが実現すると、NTTをはじめとした日本国内の携帯電話企業は太刀打ちできないと言われています。

 

DXで事業変革を行った例

 日本国内でもDXの成功で事業変革の推進や競争優位性を確保した企業が数多くあります。ここでは「家庭教師のトライ」を紹介します。

家庭教師のトライ

 「家庭教師のトライ」は、元々は30年にわたって蓄積した指導ノウハウを売りにした家庭教師事業を展開していました。しかし、生徒一人一人の学習進度が違う上、生活スタイルの変化により、家庭教師が授業するという方法だけでは成果が上がらないという課題に直面しました。

 この時、家庭教師のトライが着目したのが「映像配信」というIT技術でした。この技術を活用することで、PC、タブレット、スマホを通じて生徒は好きな時間に好きな場所で映像を通じて授業を受けることができる「Try IT」というサービスを作りました。

また、AIを活用した学習診断サービスを提供しました。このサービスは、20問を解くだけで受 講者の苦手分野をAIが推定し、苦手分野を重点的に対策ができるようにしました。

 これらのDXの推進により、家庭教師のトライは会員登録数が100万人を突破し、映像専用の塾の立ち上げなどの新たなビジネスの立ち上げにつながりました。

 このAmazonや家庭教師のトライの例にも分かるように、「ビジネスの変革」こそがDX推進の本質であり、DXを推進することでビジネスモデルを変革し、競争上の優位性を確保できるのです。

4. まとめ

 この記事では、将来待ち受ける「2025年の崖」と、それに伴う問題点、そして「DXの本質」について解説しましたが、いかがでしたか?

 「2025年の崖」とは、DXを推進しないことで発生が予測されるさまざまな問題点の総称です。それは、企業経営にも大きな壁として立ちはだかります。

 また、DXへの取り組みが遅れれば遅れるほど、企業を取り巻く環境は年々厳しくなることが予想されます。DXの推進は経営者が取り組むべき「待ったなしの経営課題」なのです。

 では、DXの成功を収めるためのポイントはどこにあるのでしょうか?次回は「DX成功のためのポイント」について解説します。

 


 

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